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第6回 平成16年2月18日(水) 一般来場者数 220名

第6回 市民公開講座 講演概要

痴呆性老人の理解と介護

 

 高齢化社会という言葉はいつのまにか現実のものとなり、今なお、わが国は高齢化の一途をたどっています。あと四半世紀もすれば、わが国が世界一の超高齢国になるという統計もあるほどです。日本の高齢化現象は、「高齢人口の高齢化」という構造上の問題を抱えています。これが単純に意味するところは、要介護人口の急激な増加と介護者の高齢化です。介護を必要とするお年寄りには様々なケースがありますが、その中で最も懸念されているのが痴呆性老人の問題です。

 現在の最先端の医学をもってしても、痴呆の大部分を占めるアルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆を治すことはできません。病気の進行をある程度抑える可能性のある薬剤がやっと使われるようになりましたが、それにしても有効なのは痴呆の程度が比較的軽い患者さんに限られています。そのような現状で、痴呆の「治療」目標とは何でしょうか。病気自体が治らないとすると、一つは痴呆性老人の残された機能をどうやって維持するかということであり、もう一つはお年寄りと私たちがどうやって仲良く一緒に生活していくかということに集約されると思います。そのためには私たちがまず痴呆性老人の症状をよく知ること、そして彼らの障害の内容を理解すると同時に、彼らの心にどうやって近づくことができるかを学ぶことが必要だと思います。

 

1)行動異常と病気との関係を理解する

 患者の引き起こす様々な異常な言動や行動は、直接苦しめられる家族にとっては、「わざとやっているのではないか」と思いたくなる時も少なくありません。痴呆老人のすべての言動や行動を『病気の症状』であると言うつもりはありませんが、「もしこの人が痴呆でなかったなら、こういった行動をとることはなかっただろう」という意味では、老人の行動や言動の異常な部分は痴呆と関係があるという理解をして間違いはありません。「わざとやっているのではないか」という気持ちが残っていると、介護すること自体がひどく辛いものと感じられ、意欲もなくなってしまいます。

 

2)叱るのは避けた方がよい

 よかれと思って叱るのは避けた方が得策です。痴呆老人にもプライドが残っていること、そして何よりも彼らは叱られてもその内容を心に留めておくことができません。その一方で「叱られた」という不愉快な体験は繰り返されると、内容は忘れ去られてもその不愉快さは老人の心に残るようになります。それでは叱った意味もなく、感情的な摩擦が大きくなり、老人は態度を硬化させ、人間関係はより難しいものになってしまいます。

 

3)説き伏せるのではなく、老人に受け入れられるように話す(説得よりも納得)

 痴呆性老人の思考の特徴は、『矛盾があってもそれに全く気がついていない』−理論的な考え方をしていない−ということです。さらにつけ加えるならば、感情的で短絡的と言うこともできるでしょう。ですから誰でも理解できるような道理や説得、注意が理解できないことがあります。理屈による説得よりも、気持ちが通じて心でわかるような納得の仕方が必要です。

 

4)コトバにならないコミュニケーションを大切に

 痴呆が高度化しても感情的な交流や非言語的な交流をする能力は残されています。優しく語りかければ『自分が大切にされている』ことは通じます。介護者の態度や表情を察知する能力は残っています。手を握る、肩を抱くなどの非言語的コミュニケーションを利用しましょう。逆に介護者の怒りや不安は老人にも伝わり、かえって老人を混乱させる結果に終わってしまいます。

 

5)痴呆の悪化を招くことを避ける

 逆説的な言い方になりますが、痴呆の進行を早めることはできるのです。一つはお年寄りに何もさせないで放置しておくことです。ここには使わないと衰えるという廃用性変化が加わることで症状はさらに進行します。もう一つは老人を混乱させることです。老人の謝った言動や行動異常を(仮に善意であっても)徹底的に修正しようとすると、老人は情緒的に混乱します。この混乱は症状の悪化を招くだけでなく、老人を取り巻く人間関係(家族関係)も進行的に悪化していきます。これらの状況を避けることが、痴呆の進行を少しでも遅らせ、在宅介護を長続きさせることにもつながります。

 

6)単純化する工夫

 ある事ができなくなった時、無理にがんばらせるのではなく、またその逆に諦めてしまうのでもなく、『単純化すること』を考えてみて下さい。

 

7)老人の言動や心を理解する

 痴呆老人の間違った言動は、単に痴呆の程度を示すものではなく、その中に老人の主張や心が含まれています。それを知ることで、老人の心に沿った対応をしてゆくことが大切です。

 

8)よい刺激を少しずつでも絶やさない

 適切な刺激を与えることで多少なりとも痴呆の進行を抑え、残った機能を伸ばすことができます。昔身につけた裁縫や、好きだった歌、習慣化していた散歩や簡単な家事などが良いでしょう。

 

9)見過ごすことも時には必要

 痴呆老人は悪い所を探せばきりがありません。最初から『迷惑な老人』としてしか見ていないと、悪い点ばかりが目に付くものです。『問題行動』であっても見過ごすことも時には必要です。

 

10)老人の『今』を大切に

 痴呆老人は健忘症状のためについさっきの過去が消失し、また未来について考えることもできなくなっています。老人にあるのは『今』だけです。これは非常に不安定な状態で、老人は些細な変化で混乱し、拠り所を失い『自分は生きていかれるのか』という不安に襲われます。『今』の不安を解消し、安心して頼れる状況を保証してあげることが大切です。

 

11)介護者の休息

 痴呆老人の介護は長期戦になります。痴呆老人の介護は特定の家族(その中でもある個人)に大きな負担がかかります。介護のストレスのために心身の故障を引き起こす人も少なくありません。介護者がどうやって適当な休息をとったらいいか−これは結局、介護されている老人にとっても重要な問題です。その介護者が倒れてしまうと、予想もしていない展開(例えば精神病院への緊急の入院)となってしまうことが少なくありません。介護者の休息は必要不可欠です。社会資源の利用も積極的に考えてください。介護者の疲れが限界まできた時には、短期間の入院やショート・ステイが必要となることもあります。

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